今回の導入事例にご協力いただいた、北出病院の院長 重里様(左)と参与 後藤様(右)
医療現場では、看護業務の増大や書類作成の負担など、さまざまな要因から看護師の離職や人手不足が深刻化しています。和歌山県御坊市の社会医療法人 黎明会 北出病院では、全職員へのiPhone配布により、看護業務の負担軽減と他職種との業務連携の強化を実現しました。同院は、まさにDXによる業務効率化に挑む病院のひとつです。そこで今回は、システム導入に携わる参与 後藤 孝志 様に、その取り組みについてお話を伺いました。
課題
- 看護業務の負担増大と働き方改革への対応
- 各病棟での端末共有と、多目的利用による運用の複雑化
- 電子カルテ刷新に伴う230台の端末導入コストと調達方
解決策
- 医療機器のNFC信号に対応したiPhoneと電子カルテ・モバイルソフト更新で業務を効率化
- 1人1台配布による「端末の共有解消」とスムーズな運用の実現
- 中古端末のレンタルとキッティング委託による低コスト調達と迅速な導入
効果
- AI等の活用により、医師、看護師が本来の業務に集中できる時間を創出(2026年7月稼働)
- 他職種間のリアルタイムな情報共有により、連携の質が向上
- ランニングコストを67%削減しつつ、働き手から「選ばれる病院」へ
効率化の意図に反して現場負担が増大

実際に運用されているiPhoneのアプリ一覧画面。全職員が1人1台活用している
1962年の創設以来、和歌山県御坊市・日高郡の医療を支えてきた北出病院。同院は、救急・災害時・休日診療・休日小児・健診事業・老健・訪問看護・訪問リハ・グループホーム等、地域に必要な医療・介護機能を提供し、地域包括ケアシステムの中核を担う社会医療法人です。そんな北出病院では、看護師をはじめとした職員の業務効率化に尽力しています。院内のシステム構築等に携わる参与 後藤 孝志様(以下、後藤様)は、その取り組みのなかで生じた課題について次のように語ります。
「多くの地方病院と同様に、当院でも働き手不足は深刻な問題です。そこで我々は、2023年から看護師の業務時間の中で大きな割合を占め、かつ精神的な負担も大きいバイタルサイン測定の効率化に着手しました」
DX推進にあたって、まず導入したのがキャリアの通信回線を契約したAndroid端末75台。バイタル支援システムのほか、内線・外線・ナースコール、電子カルテなどさまざまな機能を1台のスマートフォンに集約して活用していましたが、運用上の問題が生じたといいます。
「複数人が使う端末にあらゆる役割を持たせたために、電子カルテの入力中にナースコールが鳴ったり、電話の対応に追われたりと、かえって現場に混乱が生じてしまったのです。その結果、電子カルテバイタル用、ナースコール用といった形で、端末の役割を分けざるを得なくなりました」
肝心のバイタルの効率化についても、当時導入したシステムはBluetoothで電子カルテにデータを送る仕様であり、機器と端末を1対1で接続する必要がありました。体温計や血圧計ごとに特定の端末しか結びつけられなかったため、専用の端末を39台追加で導入しなければならなかったそうです。
「スマートフォンであればすべての用途を集約できると考えていたのですが、結果的に運用がより複雑になってしまったんです。また、通信契約を結んでいたため、毎月の通信費の負担も重く、台数を増やしたくても増やせないジレンマがありました」
電子カルテ・モバイルソフトのバージョンアップで浮上した
「230台のiPhone調達(案)」

インタビューに応じる後藤様
状況を変えるために後藤様が検討したのが電子カルテ・モバイルソフトのバージョンアップです。
「最新版の電子カルテ・モバイルソフトを導入したiPhone端末を1人1台配布すれば、ナースコールや電子カルテの共有、リハビリ実施システムとの連動など、より高度な運用が可能になります。一方で、通信回線のコスト削減や、外部のネットワークに繋げることでのセキュリティ面の懸念があったため、電子カルテに必要な院内の安全なWi-Fi環境を拡張してセキュリティを強化しつつ、通信回線の費用を抑えた運用ができる『通信回線なし』いわゆる、SIMなしの端末が必要になったんです」
加えて、医療機器の多くが、かざすだけでデータのやりとりができるNFCに対応しはじめており、NFCが使用できる端末としてiPhoneの導入が必須だったといいます。NFC対応の仕組みを取り入れることで、Bluetooth接続のように機器と端末を1対1で固定する必要がなくなります。どの端末からでもスムーズに接続が可能になる点は大きなメリットです。
また、後藤様は端末の個別配布が「スタッフ採用」にも直結すると考えていました。
「実習に来る学生さんや若い世代の看護師さんは、その病院のDXがどれくらい進んでいるかをよく見ています。1人1台スマートフォンがある環境を整えることは、彼らに『ここなら効率的に、無理なく働けそうだ』と感じてもらうための大切なメッセージにもなるのです」
こうして、全スタッフにiPhoneを行き渡らせるという目標を掲げた同院でしたが、230台ものiPhoneを新品で揃えるとなると、多額の予算が必要になります。
いかにコストを抑えて、必要な台数を確保するか。導入に向けた最大の懸念は、その調達方法でした。
中古レンタルで1人1台を実現

実際の業務用iPhone。紛失や落下を防ぐグリーンのネックストラップを取り付けている
iPhoneの調達方法を模索していた折、後藤様が出会ったのが、法人向け中古スマホのレンタルサービス「Belong One」でした。きっかけは、電子カルテシステムを導入している病院の担当者が集まるユーザー会での情報交換でした。
「ユーザー会で東香里病院さん(※)の事例を聞き、中古端末をレンタルするという方法を知りました。条件が当院と近く、非常に参考になりましたね」
※東香里病院様の導入事例はこちら
後藤様は、Belong Oneを選んだ理由についてこう話します。
「1台(月)数百円というリーズナブルな価格設定に加え、必要な台数をすぐに用意してくれるスピード感と、同社独自の厳正な検品体制。そして、大手商社グループのネットワークによるグローバルな調達力も重要な安心材料になりましたね。これならコストを抑えつつ、現場の隅々までiPhoneを行き渡らせることができると考えたのです」
コストと信頼性の両面をクリアした提案は、理事会でも高く評価され「全員一致で導入が決まりました」と後藤様は振り返ります。
「当院では、iPhone SE(第2世代)230台を一気に契約したのですが、実際の導入は段階的に進めました。まずは主要メンバー30名に配布して、新電子カルテシステムや通話アプリの使用感を確認。現場での実用性に確信が持てた段階で、残り200台を資格職のスタッフ全員へ配布しました。また、当院の情報システム担当者は2名体制。230台もの設定をすべて行うのは現実的ではなかったため、オプションでキッティングを追加して、一部作業をBelongに委託できたのも助かりましたね」
これまで一部の職員に限定されていた端末が、全体へと拡大。現場からの反発はなく「むしろ歓迎された」と、後藤様は話します。
「必要なタイミングで、大量の端末を迅速に揃えられたので大変満足しています」
コスト67%削減と「30分から30秒」への時短を叶えた医療DXは次のステージへ

iPhone電子カルテの導入を知らせる院内掲示
現在、同院ではBelong Oneで232台の端末をレンタルし、医師や看護師だけでなく、薬剤師や理学療法士、管理栄養士など複数の職種で利用しています。
「1人1台iPhoneが行き渡ったことで、情報の伝達スピードが劇的に変わりました。例えば、電子カルテに入力した情報は即座に担当者に共有されるため、他職種間の連携が非常にスムーズになりました。また、看護師が作成する『看護サマリー』も以前は30分ほどかかっていましたが、今後はAIを組み合わせて活用することで30秒で完了する予定です(2026年7月稼働)」
現場の細かな業務にも変化が生まれています。これまでリハビリテーション科では、予約表を確認するためには、電子カルテが入っている端末まで戻り、プリントアウトするという手間がありました。しかし現在は、手元の端末で確認が完結。移動時間の短縮とペーパーレス化を同時に実現しました。また、スマホで撮影した動画や写真は、リハビリ評価にも役立っているそうです。端末の個別配布が、現場業務全体のスピードアップにつながっています。
導入の決め手となったランニングコスト面でも、大きな成果がありました。
「端末を230台に増やしても、以前のAndroid端末75台の維持費に比べてランニングコストを67%も削減できています。これは、通信回線を使わず、院内Wi-Fiによる運用に切り替えた効果が大きいです。また、3年ごとの契約でレンタルしているので、契約更新のタイミングで端末も新しくなります。『端末バッテリーの寿命による劣化』という問題を、買い替えのコストをかけずに定期的に解消できる点も、レンタルならではのメリットだと感じています」
「現場の働きやすさ」を引き上げ、医療の質を支える次なるDXの一手

北出病院の未来を担う、重里院長(左)と参与の後藤様(右)
さまざまな効果が表れている一方で、運用上の新たな課題も見えてきました。
「日々の業務における電池持ちへの対策です。病棟での利用は想像以上にハードで、ナースコールの着信や電子カルテの頻繁な操作により、バッテリー消費が激しい印象です。充電のタイミングなど、バッテリーに関する運用の工夫は今後の課題のひとつですね」
試行錯誤を重ねながら、医療DXの実現に歩みを進める北出病院。今後の展望について、後藤様は次のように語ります。
「生成AIを活用したさらなる業務の改善や、医師の指示をバーコード連携で輸液ポンプに直接送信する仕組みの構築など、やらなければならないことはまだまだあります。バイタルの測定データについても、より手軽にNFCで送信できる環境を整えている最中です。業務の効率化は患者さんからは見えない部分ですが、医師たちからも『まずは看護師さんを楽にしてあげてほしい』という声が上がっています」
こうした現場の負担軽減は、病院の将来を担う働き手の確保にもポジティブな影響を与えています。
「デジタル環境を整えることは、採用においても重要です。当院に実習へ来る学生さんや若い世代にとって、DXの進み具合は職場を選ぶひとつの指標になっています。働きやすい環境を追求した先にこそ、正確で質の高い医療が提供できる。その信念のもと、これからも現場の改善に取り組んでいきたいと考えています」
過酷な環境をデジタルで支え、働き手の負担を分かち合う。北出病院の挑戦は、コストと効果を両立させた医療DXのモデルケースのひとつとなっています